プロダクトと顧客の間にある対話活動がマーケティングーAlphaDrive/NewsPicks 麻生要一
※本記事は2020年6月15日に公開した記事を再掲したものです。
現在、ユーザベースグループでAlphaDrive CEOとNewsPicks for Business 担当執行役員を務めている麻生要一さん。今までに2000件以上の新規事業に携わってきたそうです。
リクルートの新規事業コンテスト入賞で始まった麻生さんの起業家人生、そして今から起業・新規事業立ち上げを考えている若者へのメッセージを、麻生さんが考える「マーケティングとは」を交えながら紹介します。
リクルートの新規事業コンテストから始まった起業家人生
福田: まず初めに、麻生さんの経歴についてお話を伺ってもよろしいですか?
麻生要一氏(以下、麻生氏):新卒でリクルートに入社し、2年目のときに新規事業開発コンテストに応募して受賞。入社3年目から新規事業のリーダーとして、自分のプロジェクトを立ち上げました。その後順調に大きくなったので、入社5年目でリクルート100%出資の子会社になりました。それから7年間は創業者・社長として子会社を経営。それが2人で会社の1室から始めた、今期で11期目を迎える「二ジボックス」というITサービスカンパニーです。
子会社経営をしている間に、親会社のリクルートがリクルートホールディングスになり、グローバル企業になりました。上場した瞬間に本社に呼び戻され、子会社の経営だけでなく、上場後のリクルートホールディングスが管轄するの全ての新規事業を担当することになりました。
在任中は、新規事業戦略の骨子となる「リクルートベンチャーズ(当時)」という新規事業立案プログラムをつくりました。リクルートグループの中で働く社員1人ひとりをあたかも起業家のように見立てて、彼らのやりたいことをベースに新規事業を連続的につくるプログラムです。3年間で約1500の新規事業チームを一緒に立ち上げ、段階的に絞り込みながら投資しました。在任していた3年間で世の中に出せたものが12件でした。
また、オープンイノベーション戦略として、社外の起業を志す若者の支援もしていました。半年間のプログラムを卒業すると、会社ができて最初のプロダクトができ、最初の投資家から資金を調達できるというシステムです。応援してくれる人を集めるのが難しい起業前後の起業家を応援するプログラムですね。そこで生まれた起業家は300社、1100人に上ります。
リクルートのみんなと取り組んだのを合わせて、合計約2,000件弱くらいを3年で生み出すサポートをしたことになります。新規事業に関わり過ぎた結果、自分でもやりたくなって、2018年にリクルートを辞めて起業家になりました。同時多発的に創業し、現在はさまざまな会社を同時経営しています。講演などでは「起業家、投資家、経営者を同時にやっている」と自己紹介しています。
「現場と本場」へ行くことを繰り返し、視点を変える
福田: 入社2年目に新規事業を提案されていますが、もともとビジネスをつくるマインドがあったんですか?
麻生氏:毎年リクルート社内で新規事業コンテストをやるんですが、みんなが出すので出した感じですね。そこで受賞したのが僕の起業家人生の始まりでした。
当時は何もわからなかったので、モバイルインターネットの時代がこれから来ると思い事業化しましたが、後で苦労しました。モバイルインターネットのようなテクノロジーやトレンドには顧客は付かなくて、どういうサービスで、誰に届けるかを考えなければなりません。事業を成立させたことを通して、「トレンドや技術から事業を作っちゃいけないんだな」と学びました。
30歳までは事業の面白さというより、とにかく売上を出すのに必死でした。幸せだったのは、順調にサービスが立ち上がり、モバイルインターネットのトレンドをつかみ、急速に会社が盛り上がったことです。当時は「いかにこの会社の規模を大きくするか」、「いかに顧客が喜ぶサービスを作れるか」というような普通の経営者としての悩みを持っていました。
福田:これまでのご経験の中で、麻生さんの核となっているものは何ですか?
その後のリクルートベンチャーズというプログラムをつくった経験ですね。かつてのリクルートは、社員全員が起業家マインドを持っている奇跡のような会社でした。しかし上場したこともありますし、さすがに何万もの社員を抱える規模になると、みんなが起業家マインドを持っているわけではなくなります。
僕は1人ひとりの社員の起業家精神を維持しながら、新規事業を生み出し続けるような会社をつくるという命題を掲げ、新規事業開発室長をやってきたつもりです。普通の人に新規事業を任せるのは、口で言うのは簡単ですが、実際はなかなか難しい話です。
福田:いわゆる普通の人と言ったら語弊があるかもしれないですが、会社勤めしている人が社会課題に目を向けるには何が必要ですか?
麻生氏:サラリーマンの視点は「現場と本場」に行くことを繰り返せば変わります。多くの人は「やりたいことが無い」と言いますが、やりたいことが無いのは、現場に行っていないから。朝起きて電車に乗って、オフィスビルに出社して、会議だけして、また電車に乗って帰る生活を10年、20年繰り返しても見つかるはずがありません。外の世界に出て、いろいろな機会を作ることで課題意識が芽生えてきます。
マーケティングはプロダクトと顧客の間にある対話活動
福田: 1500件もの新規事業に関わっていたとのことですが、事業化するものとしないものの差は何ですか?
麻生氏:まず確率論的にいうと、ほとんど立ち上がりません。1000件トライして、3件立ち上がるくらいです。運もありますが、しっかり顧客課題を捉えて、その時代に即した、これまで誰もやらなかったことをやって、初めて成功するプロダクトができます。そして、それにお金を払ってくれる顧客を持つことでビジネスが成立します。
福田:私も何回も起業したので、非常に興味深いお話ですね。新規事業を立ち上げる中でマーケティングに寄与する要素や役割はどのようなものだと思いますか?
麻生氏:4P(プロダクト・プライス・プレイス・プロモーション)を統合しながら最適なプランを構築し、価値を創って業績を上げていくことをマーケティングと定義するならば、
重要なのはプロダクトとプライスです。例えば、僕が執行役員をやっているNewsPicks for Businessでは、最初にプロダクトを作るときに、それが本当の意味でどのような価値を創るのか、誰がお金を払ってくれるのかがわからないので、顧客と対話しながらプロダクトを作っていきました。
いろんな経歴の人に「こういうソリューションがあるんだけど、どう思う?」と仮説をぶつけていく中で、できあがったのはニュースを読んでもらうためのプロダクトではなく、組織開発の手法でした。現在はプロダクトだけではなく、顧客との対話の過程でできあがった「企業文化を変革し、組織を強くするための手法」を売っています。それを作り込むことにより、フィードバックされてプロダクトが進化していきます。要するに、プロダクトと顧客の間にある対話活動がマーケティングだと捉えているんです。
福田:何か具体例があれば教えてください。
麻生氏:僕が経営している会社の1つに、AlphaDrive(株式会社アルファドライブ)という新規開発事業の支援をしている会社があります。立ち上げ期の新規事業は「売ってみないとわからない」のですが、立ち上げ期は営業やマーケティングの十分な体制がありません。
立ち上がりさえすれば、営業部隊も作れるし、マーケティング予算も付いてきますが、立ち上がる前は体制も何も作れませんし、体制がないと売れないという矛盾も抱えています。しかもリリース時はプロダクトがマーケットにフィットしきれていないため、売り方すら正しいかどうかわかりません。AlphaDriveはその難しい時期を越えるのを支援しているんです。
大日本印刷さんと協業してつくった「URERUCA」というサービスは、彼らのセールスとマーケティングのチャネルを活用することで、短期間にめちゃくちゃ商談数が稼げるサービスです。
たとえば商談を1000件した結果、たまたまマーケットにフィットしていたら売れるわけですね。僕らは3ヶ月という短期間で、1000~2000件の商談を行い、その全てのVOC(ボイスオブカスタマー/営業先の顧客がいったこと)を分析してフィードバックします。大量の顧客の声により、短期間でプロダクトを進化させるサポートをしているんです。
福田:プロダクトを進化させていくプロセスの中で、コミュニケーションが重要な役割を果たしていますよね。
麻生氏:そうですね。プロダクトの価値が定義されていて不変のもので、これを適切な顧客に適切に届ければ良いと思っている起業家は多いですが、簡単ではありません。同じ売り方と価値定義で届けられるマーケットには限界があり、同じ営業トークでは買ってくれる人はすぐに尽きてしまいます。
別のターゲットを定める必要がありますが、新たなターゲット層には同じ価値では売れないので、営業トークやPR手法を変える必要があるんですね。それでどうにかなる内は良いですが、すぐに限界が来ます。
マーケティング効率は、たくさんの顧客や潜在顧客との対話通して価値を連続的に創るプロセスを構築しなければ、すぐに悪化します。
自分たちのことは全部横に置いて、顧客課題だけを抽出して真摯に応えるようなソリューションを開発することが重要です。
(聞き手:福田正義、執筆:木村文哉、編集:筒井智子、写真:米沢朋英)
後編、「これからのマーケターが心得るべき新常識ーーAlphDrive/NewsPics麻生要一の『新規事業の実践論』」へ続く