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SNSはありのままを伝えるツール――えとみほさんが語るSNSマーケティングと起業家マインド

2023.06.08
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※本記事は2020年4月16日に公開した記事を再掲したものです。

現在Jリーグ栃木SCのマーケティング戦略部長として活躍する江藤美帆さん。彼女は、日本における「禁煙セラピー」の普及活動や、スマホで写真が売れるアプリ「Snapmart」の開発で2度の起業を経験し、「インスタジェニック」などのトレンドキーワードを生み出したSNSマーケに特化したWebメディア「kakeru」の創刊編集長としても知られています。

「えとみほ」の愛称で親しまれる彼女は、約5万のツイッターフォロワーを抱え、日本におけるSNSマーケティングの第一人者。今回はそんな彼女の半生とマーケティングの関わり方について、じっくり語っていただきました。

江藤美帆(えとうみほ):株式会社栃木サッカークラブ、マーケティング戦略部長。
米国留学中、マイクロソフト社でソフトウェアの日本語ローカライズに携わり、その後1年間本社に勤務。帰国後フリーのテクニカルライターとして活動を開始。2004年、英国企業のコンテンツライセンス管理会社を設立し、日本における「禁煙セラピー」の普及活動に従事。
2015年よりスナップマート株式会社を立ち上げ、2018年からは代表を退任。
2018年5月より、Jリーグ栃木SCのマーケティング戦略部長。twitterアカウント  ( @etomiho )

マーケターより起業家マインド

福田:江藤さんには起業家というイメージがありますが、マーケティングに初めて接したのはいつだったんですか? 簡単なご経歴も含め、教えてください。

江藤 美帆氏(以下、江藤氏):最初の出会いは、海外の大学で経営学を学んだときです。大学進学と共に上京したんですが、自分はずっと海外に行って英語やプログラミングを学びたいという思いがあったんですね。

日本で通っていた大学は法学部でしたが、辞めて海外の大学に留学しました。ただ、法学部からコンピューターサイエンス系の学部に行くのが難しかったので、その次に興味のあった経営学部を選んだ形です。

福田:大学に入るまではマーケティングとは接してこなかったんですね。

江藤氏:まったく。ただ、子どもの頃からお金には興味があって、早く社会に出て稼ぎたいとずっと思っていました。その頃「これからはコンピューターと英語をマスターすれば、きっと早くたくさんお金が稼げるようになる」となぜか信じていたんですよ。

アメリカではちょうどインターネットが普及し始めた頃だったこともあり、学校のMacでプログラミングをしたり、ネットをつないで日本の草の根BBS(今で言う掲示板やSNSのようなもの)で発信したりしていました。

その後、マイクロソフトのインターンやフリーランスのテクニカルライターなど、29歳で最初の起業をするまでは、マーケティングとあまり関係ない仕事に就いていました。

福田:「禁煙セラピー」で起業されたんですよね。

江藤氏:はい。私自身、1日2箱吸うようなヘビースモーカーだったんですが、「禁煙セラピー」によってあっさり禁煙できたんですね。これはすごいと思い、日本で独占的に販売できるライセンスを買って起業しました。

BtoB、BtoCのどちらも展開しており、ネットでの宣伝もしていましたが、ヒットしたのはオフラインの施策で『禁煙セラピー』という書籍を出したのが大きかったです。

今で言うインフルエンサーマーケティングで、本の帯をタレントさんに書いてもらったら、本やDVDなどのコンテンツが爆発的に売れました。一般の方も口コミで広めてくださった形で、コンテンツだけで300万部を超えるヒットでした。

興味を持ってくれる人も増え、従業員も雇って経営していましたが、36、37歳のときに事業譲渡して辞めました。その後、いったん実家に帰り、金沢のITベンチャーに転職。そこで今の夫と出会い、彼の転職・上京に合わせて、再び東京に出てきました。

自分も働こうと派遣会社に登録して、仕事を探している中で知人に紹介されたのがGoogleでした。ただ、そこでの業務はオペレーションチームのリーダーみたいな仕事で、あまりマーケティングには関係ない仕事でした。その頃は、会社の看板が大きすぎてSNSでの発信がしづらい環境だったので、ツイッターもやっていませんでしたね。

その後オプトに転職し、ソーシャルメディアマーケティング事業部で働くことに。いわゆるクライアントワークもやりましたが、どちらかというと社内向けに事業部横断でさまざまなことをやっていた形です。その中で生まれたのが、オウンドメディアの「kakeru」でした。

福田:企画やコンセプトを立てる部分から関わっていたんですか?

江藤氏:そうですね。当時はオウンドメディアが流行り始めた頃です。私が見ていたチームは、メディアをやりたいという人が多かったんですね。だけど誰も編集やライターの経験がないし、それがやりたくて入社してきた人もいない状態でした。

メンバーたちの強みは何だろう? と考えた結果、彼らが大好きなSNSを軸にしようとひらめき、若い世代のSNSの使い方を発信していくことで、「オプト=若者SNSカルチャーに強い会社」というブランディングができればと考えました。

福田:最初からコンセプトありきではなく、そのときにいたメンバーのスキルセットから逆算して企画したんですね。

江藤氏:はい。Instagramを使いこなしている若い社員のインタビュー記事が、NewsPicksなどに取り上げられてました。若い世代の人たちがどういう理由でインスタを使っており、どんな風にビジネスに活用できるのか、40〜50代の男性はやっぱりわからないんですね。だからこういう記事を出すと喜ばれるんだと気づきました。

その後、Snapmartで2回目の起業をしました。この起業アイデアは「kakeru」で記事を作っているところから来ています。ずっとメディアをやってきて、いつもアイキャッチの写真に困っていたんですね。

予算の関係もあってフリー素材を使っていましたが、他のメディアとかぶることが多くて。しかもSNS広告の運用でA/Bテストをやったら、プロが撮った写真よりスマートフォンなどで撮影したナチュラルな写真のほうがCVR(コンバージョン率)が良かったんです。

やっぱりSNSでは、宣伝っぽいものは嫌われるじゃないですか。広告だなって思うと、無意識レベルでスルーしてしまうというか。だからこそ、あえて「作り込んでいない」写真のほうが良いのかなと。

会社でアプリを作りたいと提案しましたが、上司から「開発会社ではないから、社内の作れる人がいない」みたいなことを言われてしまって。ちょうどオプト社内で募集していたビジネスコンテストへの応募を勧められ、そのまま採用されて作った形です。

福田:お話を聞いていると、マーケティングの理論云々ではなく、現場に出て面白いなと思ったものを次の商品やサービスに結びつけてきた感じなんですね。マーケティングの基本も、現場で何が行われるかを見て、課題があればそれを引き上げて解決するプロセスなので、江藤さんがやってきたことと、すごく似ている気がします。

江藤氏:ほとんど意識はしていませんが、そうかもしれませんね。

最近はよく「SNSマーケティングの人」みたいな認識をされますが、それはSnapmartを営業していくにあたって、SNSマーケに強いブランディングが必要になったので、その部分だけを強調しすぎたせいなのかなって思っています。もともと「マーケター」という肩書きで働いていたことはありませんし、起業家というか、もうちょっとライトな商売人寄りの人間だと思っています。

昔から、不便なものが我慢できないタイプで。もともとプログラミングもやっていたので、プログラマーっぽいところはあると思います。プログラマーって、テクノロジーで世の中の不便を解消したい人たちですから。

王者のマーケティングと、地上戦

福田:現在は栃木SCでマーケティング戦略部長を務めておられますが、現在の課題について教えてください。

江藤氏:たくさんありますよ。サッカーって稼げるけど儲からないんですよ。コンテンツが良ければ、お金を集めることはできます。でも、そのコンテンツの質を維持するためには、かなりの投資が必要です。ビジネスサイドで収入が増えても、稼いだお金はチームの強化にどんどんつぎ込むので、運営は最小限で回さなければなりません。

福田:サポーターをどう増やしていくかも地方クラブの課題かなと思います。実際に栃木SCでは、地域に対してどのようなコミュニケーションを取っているんですか?

江藤氏:J1のビッグクラブは王者のマーケティングができるんです。SNSのフォロワーでいうと、地元以外のフォロワーもたくさんいます。全国各地にそのクラブのファンがいるので、SNSやネット広告を打っても効果がある。いわゆる空中戦ができます。

でも栃木SCの場合は、まず地上戦をやる必要があります。サッカーそのものや選手の魅力だけでサポーターを集めるのは、いろいろな地方クラブを見る中で、なかなか現実的ではないと思うようになりまして。

地方クラブで集客が上手くいっているところは、サッカーだけでなくスタジアムで1日楽しめるコンテンツを提供していますよね。栃木SCも同じような戦略を取るべきかな、と。

福田:江藤さんご自身は、栃木SCの件も含めてSNSの世界で活躍されていますが、ご自身にとってSNSはどういう位置づけなんですか?

江藤氏:栃木SCに関しては、公式サイトに「#栃木SC」を付けてくれた投稿は全部見ますってプロフィールに書いてあるんです。サポーターもそこは理解してくれていて、試合への不満はタグを付けずに投稿し、クラブへの改善要望にはタグを付けるなど、使い分けてくれていると感じています。サポーターを全員フォローするのは難しいですが、今はちょうど良い感じで交流できているのかなと感じています。

福田:今後やっていきたいことについて教えてください。

江藤氏:やはりサッカークラブは試合の勝ち負けによって収入や集客が影響を受けるので、サッカー以外の部分で収益を立てられないときついなと思っています。すでに他のクラブでもやっているところはあって、たとえば鹿島アントラーズさんやガイナーレ鳥取さんは芝の事業をやっていますし、町田ゼルビアさんはゼルビア×キッチンという飲食業を展開されています。

栃木SCは「親会社」と呼ばれる責任企業を持たない市民クラブなので、よりこの部分が大事になります。サッカークラブのブランドを使った新規事業で、少しずつ収益を上げていき、将来的には試合の勝ち負けに左右されない安定的な収益基盤を作っていければと考えています。

SNSは「ありのまま」を伝えるツール

福田:先ほど、ご自身はマーケターというより起業家寄りだとおっしゃっていましたよね。市場にものを売ったり、栃木SCで試合に来てもらったりする際の消費者目線に立って考えるマインドは、どこから来ているんですか?

江藤氏:何度か大きな会社に勤めてきて、世の中には消費者を置き去りにしていることってたくさんあるなと思っているんですよ。

たとえば自分が広告代理店のSNSマーケティングの商材を売るチームにいて、自社の別部署がSEOの商材を同じクライアントに提案しているとします。組織が縦割りで目標が設定されていると、営業としては自分の数字がほしいので、クライアントにとってSNSではなくマーケティングより広告運用のほうが良いと思っても、ゴリ押ししてしまうケースがあるんですね。

でもそれはクライアントに向き合っていない、クライアントの利益を考えていないなと思って。組織に入ると同様のことがとてもたくさんあって、それが嫌だなと。

構造的にそうなってしまうのは仕方ないのかもしれませんが、最終的に勝つのは消費者やクライアントのことを考えている会社だと思うんですよ。やっぱりその目線は絶対に忘れたくないですね。

福田:そういった経験則からの気づきは、特に若手には知ってもらいたいなと思います。SNSマーケティングの文脈で、他に知っておいたほうが良いことはありますか?

江藤氏:誤解している人が多いんですが、SNSは「ダメなものを良く見せる」ものではなく、「ありのままを伝える」ものなんです。50のものは50しか伝わらないし、それを100で売ったら炎上します。ブランディングなど広告の世界では若干きれいに見せることもあるかと思いますが、SNSはダメです。

たとえば、デザインがダサい商品を「インスタで宣伝したい」って言われても無理なんです。インフルエンサーを使って宣伝しても、絶対にうまくいかない。好きなタレントが使っているなら一度は使ってみるかもしれませんが、品質が良くなかったりダサかったりしたら、リピートしないですよね。

一時期よりはだいぶ減りましたが、インフルエンサーを使ってInstagramで宣伝したがるクライアントはたくさんいましたね。Instagramに適した商品/適さない商品があるので、まずはそこを見極める必要があります。

影響を受けた本・人

福田:話はガラッと変わりますが、このシリーズでみなさんに伺っている質問をさせてください。江藤さんがこれまで影響を受けた人や、自分の判断基準になっている本などがあれば教えていただけますか?

江藤氏:本はデール・カーネギー『人を動かす』ですね。いまだに年に1回読み返していますが、本当に原理原則だなと感じています。

ビジネスだけでなく全てのことに共通しますが、自分1人が動いてできることには限界があるので、人にどうやって動いてもらうかを考える必要がありますよね。なかなか行動に落とし込み切れていない部分もありますが、大きな影響を受けています。

マーケティングの本でいうと、W・チャン・キム著の『ブルー・オーシャン戦略』ダン アリエリー著の『予想どおりに不合理』などですね。特に行動経済学にはかなり影響を受けています。自分が起業した当初は、ちょっと油断したら資金ショートするようなカツカツの状況だったので、いろいろな本を読んで試して――その頃が一番真剣に勉強した気がします。

めちゃくちゃたくさん日本のビジネス書も読みましたが、いまも記憶に残っているのは、全部洋書の翻訳本です。やはり「原理原則」は不変のものなのかなと思います。

福田:江藤さんのお話で共通しているのが、試してみるまでの行動の早さかなと感じます。

江藤氏:もともとそういう気質はありましたが、起業によって鮮明になった気がします。起業すると、何もしなくても資金が溶けていくじゃないですか。その溶けていくスピードに追いつかないと死んでしまう。

特にIT界隈の起業家にとっての1年は、製品やサービスのサイクルを考えると、普通の人の1年よりかなり早いと思います。その世界に身を置いてきたのは、行動のスピードという意味では大きかったのかなと思いますね。

福田:影響を受けている人はいかがですか?

江藤氏:あんまり人の影響は受けないタイプなのですが、ホリエモン(堀江貴文氏)は昔からずっと追いかけていますね。影響を受けているというか、考え方や興味関心の方向性が近いので、彼のしている失敗はすごく参考になります。自分もやりがちだな、と。堀江さんは直接の知り合いで、同い年でもあって、私にとっての「しくじり先生」的な人。

あと、スポーツ業界だとBリーグ千葉ジェッツ会長の島田慎二さん(@SHIMADASHINJI大分トリニータの神村昌志さん水戸ホーリーホックGMの西村卓郎さんなどの動向は見ています。お三方ともスポーツ業界でも革新的な取り組みをされていて結果も出している方々なので、彼らが何を考えて次はどんな打ち手を打ってくるか気になります。

若手マーケターへのメッセージ

福田:このメディアはマーケティング初学者向けの発信が多いんですが、最後にこれからマーケティングをやろうと考えている人たちに向けて、アドバイスがあれば。

江藤氏:デジタル分野のマーケターに多いのが、コンバーションを何ポイント上げたとか、何らかのKPIを達成したとか、デジタルの中だけで完結しようとしちゃうケースです。

そうではなく、もっと自社全体の売上を作るには何をすれば良いか、広い視点でマーケットを見てほしいなと思います。SEOや広告運用などテクニック論に走りがちですが、もっと大きな「商売」を考えてほしいですね。

福田:そういう広い視点を身につけるためには、どうすれば良いんでしょうか。

江藤氏:私が商売を覚えたのって、ヤフオクの転売なんですよ。起業する前の無職の時代に、今で言う「せどり」のようなことをやっていたんですが、そういう小さな商売を回してみるのは良いと思います。今だとメルカリでものを売ってみる。

何が良いかというと、商品のタイトルをこうしたら売れたとか、出品時間をいろいろ試してみた結果、○時が売れやすいとか、マーケティングの実践サイクルをずっと回し続けられるんですよ。そんなにリスクも高くないので、いろいろPDCAを回してみたら良いと思いますよ。

福田:マーケティングから起業まで、いろいろなお話を伺えて楽しかったです。ありがとうございました!

(聞き手:福田正義、執筆・編集:筒井智子)

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この記事を書いた人
鈴木悠介
営業職、アフィリエイター、広告運用者を経て、現在はMERC Educationスタッフとして活動。上辺だけのマーケティングではなく、顧客の心に寄り添ったマーケティングができるよう日々奮闘中。

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