マーケティングとは「お客様を理解し、お客様と繋がること」目の前にあることを一生懸命やり続ける大事さとは。ーー株式会社クリスプホールディングス代表取締役 宮野浩史
※本記事は2020年4月17日に公開した記事を再掲したものです。
前編「競争優位性は「人」による顧客体験が左右するー株式会社クリスプホールディングス 代表取締役 宮野浩史」はこちら
1つひとつ手づくりされたカスタムサラダを提供する「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」。現在都内を中心に14店舗展開している同社の代表 宮野浩史さんは、もう1社フードテックの企業を設立されています。
そんな宮野さんに今までの半生で影響を受けた本、またこれから将来有望な若手への人生に必要なメッセージをお伺いしました。
今後の飲食業界はどうなる?
福田:昨今、日本の外食産業は元気がないと言われていますが、今後どうなっていくと思いますか?
宮野浩史氏(以下、宮野氏):たしかに閉塞感はありますが、世界では飲食業ってまだまだ伸びている業界なんですよ。中国のように国全体が成長している国はもちろん、アメリカのような成熟した国でさえ、外食はすごくイケている業界だと思われています。
特にうまくいっている会社に共通しているのは、テクノロジーをすごく上手に使いこなしていることです。外食業界はもはや単に料理を売るだけでなく、オンラインのデータをいかにオフラインでの集客に活かすかを考えることなども全部ひっくるめたものになっているんです。
僕はフードテックの「カチリ」という会社を作りましたが、外食とITの会社をやっているという感覚はありません。「未来の外食」と呼んでいますが、あくまで外食業の一環としてIT会社をやっている感覚です。
これからの時代、自社でエンジニアを抱え、データドリブンでマーケティングをして、お客様と出会うツールを開発するのが日本の外食業の普通になっていくはずです。僕らは「未来の外食」をやっている感覚を持っているんです。世界でも同じようなことがすごい勢いで起きていますから。
福田:現場で聞いたお客様の声とデジタルをつなげていくわけですね。
宮野氏:そうですね。お客様の声はデータに現れにくいので、そこは引き続き大事にしていきたいと考えています。
影響を受けた人、本
福田:経営者として影響を受けた人や言葉はありますか?
宮野氏:本当にいっぱいいますよ。いろんな方にお世話になっているし、気づきをもらっている感覚です。
特にタリーズ時代の上司に言われたことが印象に残っています。その上司は「会社は素晴らしい場所だ」と言うんですね。なぜなら、チャレンジさせてくれるうえに、失敗してもお金を払わなくていいから。僕は当時からもう一度起業しようと思っていたんですが、「失敗するなら会社でしておけ。自分で独立して失敗したら終わりだから」って言われて。
タリーズで担当していたKOOTS GREEN TEA事業は、正直あまりうまくいかなかったんですよ。すごく難しい業態で、閉店もたくさん経験したし、お店を開けても全然売れない。結局今はなくなってしまいましたからね。今、なんとか生き延びていられるのは、その経験があったおかげだと思っているので、タリーズには今でもすごく感謝しています。
福田:このインタビューシリーズでは、みなさんに影響を受けた本や、これからマーケティングに携わろうとしている人に向けて、おすすめの本を教えていただいています。何か思いつく本はありますか?
宮野氏:最近は忙しくて全然読めていませんが、もともと読書はすごく好きです。影響を受けた本は、僕らの経営理念のヒントをもらった『1分間顧客サービス』という本です。アメリカではかなり有名な本で、ファンを作るためにコストを使おうという話。
サービスの期待値ルールが解説されているんですが、お客様の期待値って当然高級レストランは高いし、ファーストフードは低いわけです。高級レストランに最低限求めるものと、ファーストフードで最低限求めるものは全然違いますよね。
クリスプは比較的安い単価の店なので、実はすごく有利なんですよ。だって全然期待されていないですから。だからお客様を喜ばせるのはすごく簡単なんです。
でも最初から良いサービスをしすぎると、期待値が上がってしまうので「80点の接客をしろ」って書いてあって。毎回100点を取るのは大変だけど、80点ならできるはず。その代わり、絶対に80点以下を出すな、みたいなことが書いてあります。
直接マーケティングについて書かれた本ではありませんが、お客様との関係性を作る、顧客体験の文脈で非常に影響を受けた本です。
マーケティングとは「お客様とつながること」
福田:最後に、これからマーケターを目指す方や、若手のマーケターに向けて、メッセージをお願いします。
宮野氏:僕はいわゆるマーケターではないので、メッセージというのはおこがましいかもしれませんが、マーケティングって「お客様とつながること」なのかなと思っています。
お客様とつながって、お客様のことを理解する。そこに体験を当てていく――顧客体験ですね。そのための手段はたくさんあるけど、裏側にはリアルな人と人とのつながりがなければいけないですよね。だからテクニックで数字をどうこうしても、それだけでは意味がないというか。
福田:その顧客体験について学ぶ、顧客のことを知るためには、何が必要だと思いますか?
宮野氏:これは正しい答えか分かりませんが、自分がやっていることを「生涯かけてこれをやりたい」と思っていることをやっている人はほとんどいません。仕事が楽しくない、俺はこんなことをやる人間じゃないと言う人はたくさんいるけど、そもそもやりたいことをやっている人もほとんどいないし、ある程度の年齢になっても自分のやりたいことが分かっている人もすごく少ない。だからすごくシンプルだけど、目の前にあることを一生懸命やりなさい、と。実はこれ、僕が若い頃に影響を受けた人に言われた言葉なんです。
自分の「やりたい・やりたくない」は関係なくて、とにかく真剣に向き合ってやると、当然成果も出てきます。成果が出るくらいまでいくと、楽しくなってくるんですよ。
下手な人がスポーツをやってもつまらないけど、上手くなると楽しいじゃないですか。下手なままで止めちゃうと「このスポーツはつまらない」って思うけど、どんなスポーツでも上手くなったら面白いはずなんです。それと同じですね。
仕事を一生懸命やっていると、必ず周りの人は見ているので、いざ本当にやりたいことが見つかったときに応援してくれます。逆に文句ばかり言っていたら、やりたいことが見つかっても「まぁ頑張れば」と何もしてもらえないんじゃないかなと思います。
目の前のことを一生懸命やることは、自分が上手になることにも、周りから応援してもらうことにもつながる――何でもそうですが、仕事は1人ではできませんし、どうせやるなら一生懸命やらないと、自分の力も時間ももったいないですからね。
福田:宮野さん自身が一生懸命やってこられたからこそ、クリスプは人気なんですね。
宮野氏:最初はこんなに評価していただけると思っていませんでした。でも、評価されているということは、これで何かやれということなのかなと思うようになりました。
個人でやっている会社なので、放っておいても毎月数百万円が入ってきます。何もしなくても、数年はそれでやっていけるとしたら、一生食っていけるかもしれないお金が得られるわけです。
それを否定するわけではないけれど、僕はそれが良いとは思えなかったんですね。せっかくお客様に評価してもらえたブランドがあって、お金もあるんだから、世の中に何か少しでも良い影響を与えるようなことをたいと考えたんです。
すごくおこがましいけれど、クリスプという会社が最初にこういうことをやったから、その後ですごいことが起こったよね、みたいになったら嬉しい。世の中が変わるようなキッカケになるようなことをできればと考えています。
お金のことを考えなくても暮らしていけるようになったときに、初めて本当にやりたいことが分かるんじゃないかな。ちょっと傲慢に聞こえるかもしれませんが、僕は別にたくさんのお金がほしいわけではなかったんだな、って気づいたんですよ。でも若い頃、お金がなかった頃には分からなかった。やっぱりお金ほしいなって思っていましたから。
飲食業界には、すごい人気店を経営しているのに、未来を感じていない経営者もいます。人口そのものも減っているし、お店を開ければ開けるほど、需要は満たされて行列は減っていく。お客様の取り合いになってしまうだけなんです。
飲食業界のことだけやっていると本当につまらなくなってしまう可能性があって。だから僕らは飲食を通じて、何か世の中にインパクトを与えるようなことをやろうと思っています。インパクトを与えるためには、ある程度の規模が必要ですよね。そのためにお店を開けるんです。
まだまだ課題は多いですが、会社のメンバーが自分事として頑張ってくれているので、すごくいいチームになってきたなと感じています。
福田:社長自らが熱く語るのって、すごく大事ですよね。今日はすごく楽しかったです。ありがとうございました!
本記事は2019年10月取材時の内容です。
株式会社クリスプは株式会社カチリをグループ化し、2020年1月20日付で株式会社ホールディングスを設立しています。
(聞き手:福田正義、執筆・編集:筒井智子、写真:小澤亮)